戦略的フォトコン入選記

「ねぇ、優秀賞は『お好きな行き先の往復航空券』だって。いいじゃん、ハワイのやつ出してみたら？」
　ある休日の朝、家人が指さした新聞には【日本一有名な航空会社】が「世界の旅フォト＆エッセーコンテスト」の募集広告を出していた。

　フォトコンかぁ…。

　写真を始めて10年、「どこのコンテストに出そーか？」などと結構マジで考えていた時期もあった。が、勢いづかないうちに自分がカメラ雑誌の編集者になってしまい、いちばんありがちなこれらの月例コンテストに応募しづらくなっていたのである。
　それどころか、応募より先に審査員の方を経験してしまうという有り様。
　が、航空会社主催のコンテストなら顔見知りの関係者もいないだろうし、ハワイの写真なら沢山ある。とにかくやってみよう。

　ではどんな写真が入選できるのか？

　写真関連以外の一般企業が主催の場合「重い機材をかついで山奥までウン時間かけてたどり着き、絶妙な露出でこの素晴らしい景色を撮りましたぁ！」などというガンバリはほとんど考慮されない。
　写真を撮らない人は、そんな苦労知ったこっちゃあないのである。ようはその企業にとってなんらかのイメージアップになるような結果がほしい。
　なにせ今回は航空会社が募集する海外旅行の写真である。一見して「こんなところに行ってみたいわぁ！」とか「あの国にこんなステキなものがっ！」などと感じてしまったあげく、ついその会社のチケットを買って旅行に行っちゃうようなイメージが必要なのだっ！
　ハワイならワイキキでたまたま子供がかわいく撮れた、という類の写真もアリなのだが、そんな写真は撮ってないし、同じような写真は100万人から送られてくるに違いない。それではオヤジが撮った写真など、あっさり粉砕されてしまうだろう。

　で、目をつけたのは【日本一有名な】…あーめんどくさいJALが直行便を飛ばしていて、ＰＲに熱心なハワイ島の写真だ。あれだけＣＭに力を入れているからには、入選する24作品の中に入れたいはず。そして多分、ライバルは少ない。
　しかし、なんとなくオアフっぽかったり、マウイで撮ったかもしれないと思われるようなものではなく、一見してハワイ島とわかる写真でなくてはJALも困るだろう。
　というわけでハワイ島（=キラウエア火山の島）という記号、つまり溶岩が果てしなく広がり、おあつらえ向きに「ALOHA」と誰かが白い石を並べた情景を撮っていたので、これについリゾートに行きたくなるミニエッセーをつけて送ることにした。

　そして約１か月後、電話で入選の知らせを受ける。優秀賞ではなく単なる入賞だったが、いざもらってみると

何もそこまで喜ばなくてもいいんじゃない？　俺？

と自分に問いかけてしまうほどウレシイ。有頂天とはこのことか？　遅咲きの演歌歌手が紅白決めたときってこんな感じ？　このあと反動で「ホームアローン」の子役みたいにアル中になったりしないだろうか？　ああ心配だ、今この瞬間、世の中にコワいものが何もない。
　作品は機内誌に掲載され、賞品として３万円分のクーポン券が送られてきたが、結局、それに自費を足してウキウキとJALでハワイ島に行ってしまうのである。攻略したつもりが、まんまと戦略にハマっていた。ま、いいか。面白かったから。